IKI-TOMO #2
Manga artist Yoshino Sakumi professed to be a fan of the Tokyo Chutei Iki and helped us succeed.
2012年11月4日(日)*要検証
東京都_代々木上原_BAR BREATH
吉野朔実_ヨシノサクミ_Sakumi Yoshino
漫画家_Manga Artist
*2012年11月22日に開催された水谷紹のデビュー二十周年記念コンサートのパンフレット掲載用の対談として。コンサート・スタッフの小林剛さんと一緒に。
吉野朔実『どうしてバリトンサックスってことにしたのかしら?』
水谷紹『ボクがバリトンサックスを買っちゃったから、以外に答は無いです』
吉野_ベーシストの戸田吉則さんの紹介で出会ったのですよね。東京中低域を作る少し前かしら?水谷くんの家に多摩川の花火を見に行って、宴会して。その時に酔っ払った水谷くんが沢田研二を歌ったのを聞いて「このヒト、そうだ、歌手だったんだ」と思って。ということは、その前にソロ活動してるのも知ってたってことですよね。
水谷_戸田さんはターミナルなヒトです。
吉野_水谷くんを誘って『テルミン』という映画を見に行った時に、高野寛くんにも会ってるのよね。彼が“日本テルミン協会の会長です“といって現れて。
水谷_ボクたちのすぐ近くの席に渡辺満里奈がいたんですよね。
吉野_それは覚えていない。その後、当時の高野くんの家も近かったということで、代々木上原のこの店に来たのよ。
水谷_それ全く覚えていない…。高野くんに会ったことサッパリ覚えていないのに、渡辺満里奈のことだけシッカリ覚えている。
吉野_ヒトってそういうものです。
水谷_たしかに“テルミンって言えば高野寛“ですよね。
吉野_私、そんな楽器があることすら知らなかったのに、水谷くんも持ってるし、高野くんは会長だっていうし。
水谷_いや、ごくごく一部の偏った音楽家だけの間でポピュラーなだけで。
吉野_みんなテルミン入門はビーチ・ボーイズ?
水谷_ボクはジミー・ペイジ、高野くんは何なのかな?彼は美大系のヒトだし、もともとギズモ的な、ガジェット的なものが好きなヒトですからね。
吉野_高野くんとはどんな出会い。
水谷_友部さんのスタッフが高野くんのスタッフに“コーラスの出来るヒトいない?“って聞かれて、ボクのことを紹介してくれて。それは下北沢の旬亭のカウンターでのことだったらしいんですけどね。
吉野_今回のゲストの中では鈴木慶一さんが一番古いの?
水谷_いえ。友部さん高野くん慶一さんの順です。でも、慶一さんが最も長く密に会ってます。サッカーとか海水浴ですけど。
吉野_音楽じゃないんだ。どんな間柄ですか?
水谷_慶一さんは大体ボクに厳しいヒトなんですが、時々優しくしてくれて。若い頃サポートでベッタリだった友部さんは最近では放任されていて、でも時々“ちょっとギターを弾いてくれない?“って声をかけて頂けて、それがなんとも嬉しいです。ずっと父のような兄のような存在です。高野くんは未だにアイドルです、何もかもカッコいい。
吉野_ゲストお三方同士はお友達なの?
水谷_そうですね、たぶん。みんな一癖あるボーカリストだし。3人とも言葉=詞がすごいヒトたちですから。ボクは3人ともに憧れています。
吉野_水谷くんも詞が、ちょっと…変わってる、少し…エキセントリックなところがありますよね。例えば自分の中の“女の子性“を、わりと昔から強調している…というか、そういうのを表に出すのが面白いと思ってるような。その辺を私も面白いと思って聞いているのですが。自分でも意識してるの?
水谷_歌の中の一人称がボクではつまらないなと思っているのかも。水谷が水谷のことを歌っているものではボク自身もつまらない。ボク自身がボクのこと、大して面白くないヒトだという事はよく判っているし。一人称が“アタシ“だったら水谷のことじゃないんだなってのが一目瞭然に伝わるかと。
吉野_歌の中で女装してる感じ?ちょっとスカートはいてみよっかなって。そうすると物語っぽくもなりますよね。
水谷_女のヒトのほうがシャッキリしていて、コレはこうでソレはそうで、ってちゃんと言ってくれる…と。だから…やり易い。フフフ。
吉野_ハハハ。
水谷_東京中低域の時も、そうしなくってもいいのに女言葉で歌詞を書いていますが。
吉野_そういえば渋谷アックスだったかな?来日したルーマニアのバンドと共演するっていうから見に行ってみたら、実際に水谷くんスカートはいてた。
水谷_2006年と2008年のロンドンやロッテルダムのツアーでもスカートはいてましたよ。
吉野_イギリスならスコットランド人はキルトはいてるしね。でもあれ、中は下着つけてませんよ。
水谷_ボクがはくと民族衣装というか、袴のように見てくれているようで、別に驚かれませんね。そのまま飲みにもいきますし。全然平気です。
吉野_さらに“やり易い“ですね。女言葉にしたりスカートはいたりすると“やり易い“っていうのは興味深い話です。今の世の中、観念的な“愛“とか“絆“とか歌うヒトだったり、“今日ボクが見て来たこと“を歌うヒトが多いじゃない?水谷くんはそれよりもっと…虚構の物語を歌っている。もうひとつ、これは何度も聞かれたことだと思うのですが、どうしてバリトンサックス12人ってことにしたのかしら?
水谷_それはボクがバリトンサックスを買っちゃったから、以外に答は無いです。テナーやアルトで始めたら、この形は求めなかったと思います。
吉野_それは絵的に?音的に?
水谷_両方です。アルトでは…面白くない。テナーでも…面白くない。バスだと…誰も持ってない。ちょうど良かったのですね、バリトンが。ただ吹いただけの音もナチュラルにディストーションギターのようだし、とてもロックを感じています、バリトンにだけ。
吉野_もとはギタリストだったのよね?ピアノも弾けるんだからピアノでも良かったのでは?
水谷_ピアノが12台だと倍音が濁りますから。バリトンサックスは1人1音しか出せないので、12人いても12音の和音しか鳴っていませんから。域の最初の頃は“水谷紹ってヒトは音楽や音響のこと何も知らずにやってる“って馬鹿にされ続けてたんですけどね。ボクは理論は知っている、でも理論がチッポケなことも知っていた。いつか誰かが東京中低域の音楽の構造を解析して理論にしてくれれば、この気持ち良さは彼らの言う“正当なもの“になるでしょう。でも今のところ、我々と聴衆の間で“これは気持ちいいから大丈夫“ということを共有してるだけ。非常に原始的ですが、それで良い。
吉野_やりながら、ずらしてみたり、あわせてみたり、いいですね。
水谷_アドベンチャーズ・オブ・モダーンミュージックですから。英会話の先生には“オブじゃなくてインだよ“って言われたんだけど。
小林_水谷さんの中で12本のバリサク・アンサンブルというものが、興味本位的なものから“コレはいけるぞ“ってなったのは何時ですか?
水谷_うん、それはハッキリとしていて。『インザマス』を録った時から。“コレはいけるぞ“っていうか“コレはいかなきゃ“と思いました。それまでは物珍しさや独自性でなんとかなると思ってたフシもあります。本物のサウンドを見つけたのは3枚目、それまでは正直…あんまり判んなかった。単に良い曲が書けてなかったというのもありましょうし。3枚目でその勘が働いて、『十一種』の時には“判った“って感じになって来ました。
小林_ボク、最初に聞いたのが『十一種』で、吉野さんにライブ連れてってもらったんですよ。
水谷_メンバーもその頃“判った“のだと思います。それまでは“なんでこんなサックスも吹けないヤツが書いた理屈に合わない音楽をやらなければならないのか“っていう、そんなこともどっかで思ってたかも知れませんね。力ずく納得させるにはロンドン公演も必要でしたし、ボクが強引に物事を動かしだしたのは、そうした3枚目4枚目の頃ですね。
小林_ボクは最初に域を見て、その後にソロを見たのですが、ソロを見た後、東京中低域の焦点が合って来た感じがしてます。例えば“イレブンセブン“は東京中低域でも、今堀くんとのデュオでもやるでしょ?デュオのを聞いていて、なんというか、二眼レフのカメラの焦点が合う様な感じで“あ、合った“と。
水谷_ほんとですか?だったら他の人にも見せて“合った“してもらわないと。
吉野_えーと、えーと、そろそろナントカまとめないと。
水谷_今日のお話もそうなのですが、自分の二十周年もなんだか、東京中低域の営業の一環みたいな感じになっちゃうな。意識してなかった訳でもないのですが、今回は実は歌手としての水谷に一区切りつけようという意味合いもあって。たぶんの東京中低域がボクの残りの人生のほとんどになりますから。
吉野_さっきまでここにいた彼女(吉野さんの友人)も22日(二十周年記念ライブの日)に誘ってあるの。“水谷くんは歌もいいのよ“って言って。でも、22日に行ったら“今日で歌の活動は終わりです“ってなったらショックですよ。
水谷_…じゃ、ホソボソとは歌っていきますから。年に1~2度、今堀くんとかと二人で。
吉野&小林_それ、今までと一緒じゃん!
吉野さんとは実はものすごく対談をしていて、ぼくが主催していた月間のメールマガジンでどのくらいだろう、1年以上かな、映画や展覧会を見に行ってはお話をしていました。マリカの対談はがっつり東京中低域の話なので、もし本を作るならなんとか収録したいところです。その時は扶桑社さんに相談してみよう。[水谷紹]