IKI-TOMO #4

Hirofumi Suzuki, songwriter and bassist of The Moonriders, collaborated densely with Tokyo Chutei Iki.

2011年10月26日

東京都_恵比寿_TORI DORI

鈴木博文_スズキヒロブミ_Hirobumi Suzuki

音楽家_ムーンライダーズ

(インタヴュアー:水谷紹=東京中低域・域長/文字起こし:前田まなみ)

意外と歌い易かった

水谷:東京中低域(以後・域)の結成初のゲストボーカルは博文さんだったんです。憶えてます?

鈴木:あ、そう?2000年だよね?オレとテッチーと、もうひとりは誰だっけ…。

水谷:いや、確かお二人だけ。あの時は何を歌って頂きましたっけ?

鈴木:オレのソロの『隣人』って曲。

水谷:そうだ、思い出しました。ソレ、今度一緒にやりましょうよ。

鈴木:いいけど、そのころのそのへんてツライ思い出なんじゃないの、水谷くんにとって。

水谷:色々ありましたからね、当時。お気遣いありがとうございます。でもボクの方は全然平気。

鈴木:ハハハ。

水谷:バリサクだけだと歌いにくかったですか?

鈴木:そう思ってたけど、意外と歌い易かった。

水谷:ホントに?そういう人は珍しいです。昨日(10/25)は白井良明さんにライブのゲストに来て頂いたんですけど…。

鈴木:アイツ歌ったの?

水谷:はい、何曲か。

鈴木:ああそうだ、聞いたよ、昨日昼間、白井に会った時“オレ6曲もやるんだよ…”と言い残して去ってったから。

水谷:結構やらせちゃうんですよ、ボクたち。こんど博文さんに来て頂く時は『大寒町』は勿論やって頂きたいですが、ほか、何しましょう?

鈴木:やっぱり1曲だけじゃないんだね…。

水谷:はい、なるたけ沢山。ここであんまりバラしちゃいけないけど、ザ・バンド(オモニ=the Weight)はやりましょう。

鈴木:ああ、アレだったら水谷くんの訳詞もあるから、倍のサイズで出来るな。2曲分だね。

水谷:そういうワケにもいきませんから、他の曲もやりましょうね。バリトンサックス13本を従えてロックを歌うこと自体、音楽家人生の中でもきっと稀なことなので、どうか満喫して下さい。

シバリがあったよね?

水谷:先日は制作中のムーンライダーズのレコーディングに域のメンバーを呼んで頂いて。

鈴木:白井の曲とオレの『オカシナ救済』って曲で吹いてもらったね。

水谷:『オカシナ~』一緒にやっても良いですか?

鈴木:ああ勿論。ウエイトに似てっけどね、コード進行テキに。

水谷:似てないですよ。ぜんぜん気づかなかったし。

鈴木:だけど、部分的なセクションだったから、あの日、吹いてもらったトコだけだと歌えないかな。あ、オレが全編のギター弾けばいいのか。

水谷:ベースにしません?

鈴木:いいよ。昔はシバリがあったよね?バリトンサックス以外、舞台に持ち込み禁止っていう。

水谷:そうだったんですが、今年の5月の火の玉ボーイ35周年コンサートに出演するにあたって、大幅に憲法改正いたしまして。

鈴木:ホーンセクションとして出て貰ったからね。

水谷:だから、みんなソプラノもアルトもテナーも吹きました。

鈴木:シバリがあるのも面白いっちゃ面白いがね。

水谷:そうだ、バリトンギターにしますか?ボク持ってますから。

鈴木:バリトンギター?…そんなのあるの?

水谷:はい、6弦ベースみたいなヤツ。Eの下にもう1本、さらに4度低いBの弦があって。

鈴木:アタマ、こんがらがるね。

水谷:でも、5カポすればギターと同じですから。

鈴木:ってことね、なるほど。

Gだと声がハリハリに

水谷:今回のCD『大寒東京』は4曲中3曲が歌モノという、域には珍しい比率なんです。

鈴木:方向を完全に転換したんだね。

水谷:この作品に関してだけは。いつもは10曲収録しても、歌モノは2曲ほどだけで。

鈴木:水谷くんのボーカル、いいじゃない。

水谷:ありがとうございます。照れます。ま、それはそれとして。『大寒町』の初出は1974年?

鈴木:正式レコーディングは、その頃だね。

水谷::歌ったのは、あがた森魚さんですよね?

鈴木:そう。

水谷:博文さんが吹き込んだのは?

鈴木:1995年かな。それまでもライブでは演ったりしてたけど。

水谷:ボク、最初に聴いたのは矢野顕子さんヴァージョンで。“Super Folk Song”に入ってた。

鈴木:5月にやった時も初っ端がアッコちゃんヴァージョンで、その後があがたヴァージョンだったね。キーは何だっけ?

水谷:あの時はたしかFだったような。

鈴木:あがたくんがFだったからね。そうか、元々はGだった。

水谷:どっちが歌い易いですか?

鈴木:今はF。Gだと声がハリハリになるから。

水谷:ボクも時々歌わせて頂くんですけど、やっぱりFですね。どっちにしても歌って気持ちがよい曲です。

鈴木:歌詞も憶え易いしね。っていうか歌詞少ないからね。

水谷:そのワリに域のレコーディングで間違っちゃいましたよね。

鈴木:歌詞の順番変わっちゃったよね。ま、変わっても同じようなもんだから。

あれを何年かズーッと

水谷:今回、域アレンジの『大寒町』歌ってみていかがでしたか?

鈴木:どっから入ればいいのか判んなかった。

水谷:ハハハ。いろんな人がカヴァーしてますけど、域のアレンジやサウンドはどうですか?一番ヒンヤリしてると思ってるんですけど。

鈴木:ヒンヤリっていうか、クールだね。

水谷:荒涼としている?

鈴木:いや、荒涼とは違う。都会的だね。

水谷:ドライ?

鈴木:そう、ドライ。

水谷:クールでドライ…。なんか冷凍食品みたいですね…。『大寒町』で何か秘話ないですか?

鈴木:いろんなとこで喋ってるから秘話じゃないんだけど、歌詞に『場末のビリヤード~』って出て来るでしょ。あれを何年がズーッと『バマツ』って読んでたんだよね。

水谷:え?誰が?

鈴木:オレが。本人が。あがたくんがレコーディングして初めて『バスエ』って読んだから。『あ、バスエって読むんだコレ』って。

水谷:あがたさんが知ってて良かったですね。書いたのは何歳ころですか?

鈴木:17歳とか、そんなもんじゃないかな。

水谷:17歳!アンファンテリブル!…ああ、でもそれなら『バマツ』はしょうがないですね。

鈴木:結構そういうこと多いよ、今でも。

水谷:日本屈指の“詩をあやつる達人”鈴木博文ともあろうおカタが…そういうこと言う?確かに、大人になっても曖昧なままなこともあるけど。

鈴木:より多くなってきてるよ、年々。

水谷:ボクはあの、鼻の奥にある『鼻腔』がね、曖昧で。『ビクウ』なのか『ビコウ』なのか。

鈴木:ありゃ『ビコウ』でしょ。

水谷:でも『口腔外科(コウクウゲカ)』の『腔』だから。

鈴木:ああ、そうか。

水谷:『コウコウゲカ』かも知んないけど。

鈴木:死んじゃうことは『死去(シキョ)』だよね。『シコ』じゃないよね。

水谷:『シキョ』ですね。過去は『カキョ』じゃないですけどね。

鈴木:こういうことがさ、微視テキに見れば見るほど、考えれば考えるほど、判らなくなって来る。

水谷:あがたさんのは『アカイロエレジー』ではない。

鈴木:ハハ、あれは元があるからね、間違えない。

その“ノチ”の土地

水谷:博文さんは震災の時はどちらにいらしたんですか?

鈴木:家にいました。

水谷:ボクらはちょうどリハーサルをしていて。当初4月2日開催予定だった火の玉ボーイのコンサートのためのセクションのリハを地下のスタジオでしていたんだけど、外に飛び出したら、新宿の高層ビルが揺れてて…これはオオゴトだと。

鈴木:ウチは古い建物だから、アチコチの隙間が揺れを吸収してくれて、被害は少なかったんだよ。

水谷:湾岸に近いですよね?液状化は大丈夫?

鈴木:大丈夫。あのあたりはナンつっても江戸時代からの埋め立て地みたいなトコだからね。

水谷:液状化すべき土地はトウの昔にしてしまってるってことですか。

鈴木:その“ノチ”の土地だから。

水谷:多くの表現者が被災者救済の為にアクションをおこされているのですが、ボクは自分の家族のことを心配することで精一杯で、今に至るも何も行動していない。この『大寒東京』をリリースすることが、遅ればせながら、ですが“何か”になってくれればなと願ってます。ところで博文さん周辺のみなさんは、歳を重ねても創作のスピードが落ちない人たちばかりで、スゴイなと思ってるんですけど。

鈴木:かなり落ちて来ていると、自分では感じてるんだけどね。焦ってる自分を感じて“焦っちゃいけないな”と思ってる。周りを見ると余計にそうなんだよね。周りを見るのもいけないな。

水谷:ムーンライダーズは全員が書く人だから、アルバム作ろうってなっても早いですよね。

鈴木:ライダーズはそうだね。

水谷:域は1枚作ろうと思ったら、ボクが1年間、苦悩することになる。

鈴木:域の水谷くん以外のメンバーは流動的なの?

水谷:いや、固定されているんですけど、全員はナカナカ揃わないです。

鈴木:流動するよりその方が良いよ。

水谷:ライブには常に、少なくとも2ケタの人数で臨みたいんですけどね。

鈴木:“少なくとも”の、2ケタかい。

水谷:ま、誰が欠けても誰かが必ず補ってくれるので、“質”には不安は無いのですが。最近では上運天淳市とか、頼れるメンバーが…。

鈴木:ああ、ソロ吹いてくれた上運天くんね。

水谷:彼などはどんなパートをあてても面白いですから。そういうメンバーが増えてますし。

16ビート弾ける?

鈴木:この指、ハレてんでしょ。

水谷:うわっ、どうしたんですか?骨折?

鈴木:靭帯。家で転がってさ、手ついたのね、そしたら第二関節から真横に直角に曲がったんだよ。

水谷:ホンダさん、博文さんの指、写真撮って!

鈴木:16ビートが弾けなくなっちゃってさ。

ホンダ:コレ最近ですか?

鈴木:去年の12月だから、10ヶ月かな?

ホンダ:10ヶ月経ってもこのハレですかー!?

水谷:ホンダさんボクの手も撮って。ホラ、博文さんと同じとこに縫い目があるでしょ。

鈴木:ホントだ。

水谷:3歳の頃、切断したんですよ。もう50年近く前のキズ跡が残っているという。

鈴木:10何針だね、コレは。

水谷:姉が斧で土を掘っていて、ボクが堀った土をかきだすという遊びをしていて、タイミングが狂ってスパッと。

鈴木:それでくっ付いたんだ?

水谷:父が近くにいたんで、転がった指を拾ってくっ付けて押さえたまま病院に行って。

鈴木:正常に動くの?16ビート弾ける?

水谷:退院してしばらくは動かなかったけど、リハビリをしっかりしたので、今は普通に動いてます。16ビートはそれと関係なく苦手ですが。

鈴木:切れたのってそうすると繋がるんだね。オレ、そういうの迷信だって思ってた。

水谷:そうですね、昭和30年代の医学でも、そのくらいは出来たってことですね。

鈴木:でも指先じゃなくって腕の付け根だったりするともう駄目だよね?

ホンダ:切り口がキレイだと大丈夫みたいですよ。

鈴木:首は?

水谷:首は…切れた時点で死んでる気がするなあ。

鈴木:そうかあ、やー、面白いこと聞いたなー。でもコレ喋っちゃいけないんでしょ。今度ゲストで行った時とか。

水谷:別に良いですよ。中指受難仲間ってことで。

鈴木:でもこんな風に二人で中指立てちゃいけないよね。

水谷:会場は横浜“サムズアップ”ですからね。

病気だから仕方ない

水谷:最後に。域はやっと11年目なんですけど、バンド長寿の秘訣なんてありましょうか?

鈴木:全員が病気を持つ、ってことかな。で、互いの病気を知る、ってことだな。

水谷:同病相哀れむ?

鈴木:あのヒトは遅刻したけど、あのヒト病気だからな、とかさ。あのヒト怒って帰っちゃったけど、あのヒト病気だから仕方ないな、とかさ。

水谷:“許す”ってことですね、うむ、それなら得意です。